ハンドパンの製作を開始して早5か月。6台目の試作にてようやくハンドパンとして最低限のチューニングを施すことに成功しました。これまで応援してくださった方々、ご助言くださった方々には本当に感謝しております。ありがとうございます。
早速ではありますがチューニングについてのノウハウをシェアしようと思い、今回はできるだけハウツーに近づける形でチューニング方法をまとめてみました。
まだまだ未熟者が書いたHOWTOなので、もしかすると誤っている部分があるかもしれません。その点はご勘弁いただけたらと思います。
2024/5/25追記
以下の内容を参考にして、手持ちのハンドパンのリチューニングを試みるのは絶対におやめください。
ほぼ確実に失敗します。
この記事はあくまで、”これからハンドパンを作りたい人”のための記事として記しています。※とはいえ話3割を信じるぐらいがベターかと思います。
ご理解の程よろしくおねがいいたします。
ハンドパンのチューニングとは
そもそもハンドパンはなぜ音が鳴るの?
チューニングをする上で音のなる原理的なものは一応頭に入れておいたほうがいいと思うので、僕が頭の中でこういうものだと理解している内容を説明しておきます。
ハンドパンはなぜ音が鳴るのか?
その理由はズバリ「音盤内の圧力」です。
以下、詳しく説明していきます。
まず、音盤を作る前のシェルの状態の説明です。当たり前ですがこの状態ではまずハンドパンの音はなりません。これは鉄板が均一に伸びていて安定している状態だからです。
次に表からハンマーでたたいてトーンフィールドを作ってみます。すると叩いて作った面が振動するようになり音が出るようになります。
もともと弧を描いた部分が同じ幅の中にほぼ平らな状態で押し込まれている状態です。当然トーンフィールド内の鉄板には圧力がかかることになります。この圧力こそがハンドパンの音を生む要因となっています。
詳しくはHOWTOで説明しますが、トーンフィールド内の圧力が高くなるほど音は低くなり、逆に低くなるほど音が高くなるという特徴があります。
倍音のチューニング
表からたたいてトーンフィールドを作ると音が出るようになると述べましたが、この時点ではハンドパンには程遠い小さな太鼓のような音です。
これは倍音がちゃんと出ていないことが大きな原因です。
倍音とは、ある基音に対して周波数を基音の2倍3倍…と整数で倍にした音のことです。
C3を例にすると、
- 基音⇒C3
- 2倍音⇒C4(オクターブ)
- 3倍音⇒G4(オクターブ+完全5度)
- 4倍音⇒C5(2オクターブ)
となります。
この倍音は同時に鳴らすと調和性が高く、ほとんどの旋律楽器の音(複合音)はこの倍音で構成されています。
ハンドパンのトーンフィールドにおいては基音に対して2倍音と3倍音のハーモニクスが出るようにチューニングを施すことで、ようやくあの音色を響かすことができます。
上述のことを踏まえハンドパンのチューニングを一言でまとめると、
「音盤内の圧力をハンマリングによる変形でコントロールし、目標とする基音及び2倍3倍音のハーモニクスを得ること」
というふうになります。
物理学や音響学をちゃんと勉強したわけではありませんが大筋のイメージはこんな感じでいいと思います。
チューニングに必要な道具類
チューニング台
チューニング台を利用するメリットは大きく2つです
- 音が響くようになる
- 作業効率が上がる
ドラム缶などの打ち台の上でもできないことはないですが、音はミュート気味になりますし、なにより作業効率が悪いです。
チューニング台はホームセンターに打ってある資材で製作できるので、めんどうかもしれませんが準備しましょう。
参考記事です。
ハンマー類
トップチューナー達はおそらく特注のものを使ったりしているのですが、ホームセンターに売っているようなものでも十分です。
僕はこのコンビハンマーの金づち側をメインで使っています。
選ぶときの注意点は、自分がハンマーをコントロールしやすい重さのものを選ぶことです。重すぎると微妙な調整に苦労するので、どちらかといえば軽めのほうがいいかもしれません。
キズ防止のテープは防食テープがおすすめです。僕はこのテープを2枚重ねでハンマーの頭に張っています。
柄は買ったままだと長すぎて他の音盤にぶつかりやすいので、必ず必要最小限の短さにカットしてください。
チューナー
現在3つのチューナーアプリを使用しております。使用用途と特徴についてひとつずつ紹介します。※詳しい使用方法は割愛します
<楽器チューナー(PC)>
メインのストロボチューナになります。楽器から出る倍音を分解して可視化しており、倍音のチューニングには必須のツールとなります。僕は±50セントからこのチューナで確認するようにしています。
ハンドパンのチューニングといえばリノチューンが有名ですが、こちらのほうが圧倒的にコスパがいいですし個人的にはこちらのほうが使いやすいです。
<iAnalyzer Lite(スマホ)>
スマホ用のFFTアプリです。
FFTとは高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)のことです。楽器から出る音に含まれる純音(倍音)をグラフ状に可視化してくれます。
上記ストロボチューナーが反応しないぐらいチューニングがずれているときに、音(倍音)の現在地(値)を確認するために使用しています。登山におけるGPS(地図アプリ)みたいな役割です。
このiAnalyzer Liteは無料のアプリですが非常に使いやすくておすすめです。
<Tuner Lite(スマホ)>
基音のチューニングを行うときと、純音を耳で確認したいときに使用しています。A2~C7の純音をスマホのスピーカーから出力できます。
マグネットシート
音盤のミュートのために使用しています。ハンドパンは楽器の特性上、共鳴が起きやすい楽器です。共鳴が起きてしまうとチューニングに支障がでてくるので、チューニング中の音盤以外はミュートしておきます。
マグネットシートは100均でA4サイズほどで入手できます。
その他
イヤーマフ⇒聴覚保護
音盤を照らす照明器具⇒音盤の凹凸などを確認しやすくする為にあったほうが良いです。
HOW TOチューニング
HOW TOに入る前に
<各部呼称>
HOW TOをするにあたって便宜上、音盤各部の呼称を決めておきます。
以下の図の通りです。
<今回紹介する方法が有効な音盤の設計条件>
昨今様々なハンドパンが世に出回ってますが、音盤の設計はメーカによって様々です。音盤の設計が変わればチューニング方法も変わってくると思われるので、これから紹介するチューニング方法が有効な設計条件を先に記しておきます。
設計条件とは言っても、楕円の長辺短辺比とショルダーの作りのみです。
楕円の長辺短辺比→長辺:短辺=1.25:1
ショルダーの作り→丸角にする※決してカクンと折らない。
基音のチューニング
※これからチューニング方法の説明に入りますが、トーンフィールド成形後一度焼いた状態をスタート地点として説明していきます。
トーンフィールドの成形について知りたい方は以下記事をご覧ください。
基音のチューニングは基本的にメンブレンの凹凸具合で調節していきます。
ハンドパンの音程は「圧力が高くなるほど音は低くなり、逆に低くなれば音が高くなる」と先述しましたが、実際のメンブレンの状態と音の関係を図にすると以下の通りになります。
以下、詳しい手順を説明します。
<Step1:音盤をほぐす>
シェルを焼いた後の状態だとほぼ必ず目標の音より高音側にずれこんでいるので、目標の音まで落としていく作業になります。
まずは焼いた後でカチカチになった音盤をほぐす為に、メンブレンを凸側に目いっぱい打ち出した後、最低音まで落としてみましょう。
この作業のポイントは2つあります。
ポイント①外側から内側へ送り込むように丁寧に叩く
音盤が凸状態から音程を落としていく際、メンブレンを適当に叩いて落とすのではなく、外側から内側へ送り込むように丁寧に叩いてください。
こうすることによって効率よく音盤に圧力がかかるようになるので、適当に叩いたときと比べるとより低音まで落とすことができます。
ポイント②目を使って音盤の状態を確認する
必ず目を使って音盤の状態を確認するようにしてください。※これ意外と重要です
一部分だけ落としすぎてないか、テンションが余ってそうな部分(凸が残ってる個所)はないかなど、よーく観察をしましょう。たぶんいろんなことに気づくと思います。
以上手順で目標の音に達すればこれで基音のチューニングは終わりです。しかし、おそらくその手前までしか落ちないので、次に説明する方法で音盤の最低音を落としていきます。
<Step2:目標の基音まで音程を落とす>
Step1で目標の音まで落ちない場合、以下の2つの方法で音程を落とすことができます。
方法①メンブレンを叩き伸ばす
一度音盤を凸状にたたき起こし、そこからさらにメンブレンを叩き伸ばすことによって、再度平らに戻した際の音盤内の圧力が高まり音程が低くなります。
※一旦叩き伸ばしたものは元に戻らないので伸ばしすぎには注意してください。
できるだけこの方法①で落としきるのがベストだと思います。そしてできれば目標の基音よりさらに全音ほど低い音が出るようにしてください。倍音のチューニングの際にマージンがあったほうが楽になります。
方法②音盤を大きくする
単純に音盤の設計を変えるという方法です。できればしたくない方法なので、できるだけ方法①で完了できるようにしましょう。
コツとしては、一度音盤を凸状に打ち出した状態から、ショルダーを音盤の中芯にむかって送り込むイメージでハンマリングし音盤を広げるといいです。
<使用するチューナーと使用する上でのポイント>
基音だけを測れればいいのでTuner Lite(スマホ)を使用します。時折、基音がミュート気味になってわかりづらい場合があるので、そのような時はFFTしてみるのもありです。
FFTツールを使って倍音の現在地を確認
ここで一度、iAnalyzer Liteを使用してこの時点で出ている倍音を確認しておきましょう。
FFTする理由
この作業を登山に例えるなら、GPSで現在地を確認する作業みたいなものです。現在地が分かることでこれから進むべき方角が明確になります。逆に現在地を確認できていないと、自身の経験や勘を頼るしかありません。
これはハンドパンのチューニングにも同じことがいえると思います。音の現在地が分かることで向かう方角を決めることができます。これを怠ると、チューニングで迷子になったり、逆の方向にチューニングをして取り返しのつかないことになったりする可能性が高まります。
もちろん、経験を積むことで倍音の聞き分けやそれに対する音感もついてくると思うので、そのようなスキルが身に着けばFFTしなくてもいいと思います。
<実際に出ているハーモニクス音も耳で確認しておく>
FFTで確認した音程が実際に出ているか耳でも確認しておきましょう。
この先倍音のチューニングでは基音と倍音を聞き分ける能力が必要なので、そのトレーニングとしても有効かと思います。
手順
①まずTuner Liteを使ってFFTの測定の結果で出た音程を純音でスピーカー出力し耳で記憶します。
②実際にハーモニクスを鳴らしてみて、耳で記憶した音と一致するのかを確認します。
※ハーモニクス音は以下の要領でハンマーを使うことで確認できます。
このように耳で確認することによって、これからチューニングする音を自分の耳でもターゲッティングすることができます。
<長辺短辺比1.25:1音盤の倍音傾向>
FFTしてみるとわかりますが1.25:1の音盤ではチューニング前で以下の傾向が見られます。
- オクターブ⇒目標の音より高い
- オクターブ+五度⇒目標の音より低い
※トーンフィールドの成形の具合によってその度合いは違います。
実際に前回の試作ではding以外の9音すべてがこの傾向でした。
なのでこれから説明する倍音(2倍音&3倍音)のチューニング方法は、
- オクターブ⇒目標の音まで音程を下げるチューニング方法
- オクターブ+5度⇒目標の音まで音程を上げるチューニング方法
という形で説明していきます。
2倍音(オクターブ)のチューニング
2倍音のチューニングは音盤長辺側のショルダー及びショルダー付近の変形で調整していきます。基音のチューニングに比べると難易度がぐんと上がってきます。
先ほど述べたように2倍音は音程を下げるチューニングを施します。音程を下げる具体的な調整方法が3種類ありますので、優先順位が(おそらく)高いほうから説明していきます。
方法①ショルダーの内側を凹る
この方法でチューニングが完了できればベストでしょう。※実際はなかなかそういうわけにはいかない。
変形のイメージは以下の通りです。
ハンマリングにもコツが必要で、ハンマーの角を少し立てるイメージで強めにハンマリングします。このハンマリングの要領はやりながら掴むしかないです。
おそらく変形させる過程で基音のチューニングも狂うと思うので、その都度戻しながら倍音のチューニングを行いましょう。
ポイントとしてハンマリング中は倍音を耳で捉えながらやる必要があります。これは基音を耳でとらえるのに比べると難易度がぐんと上がります。慣れないうちは、先述したハーモニクスの確認方法で時折ハーモニクスを確認したり、FFTしたりしながら行うのがいいでしょう。
方法②ショルダーの頂点をつぶす
方法①で下がりきらなかった場合はこの方法を使います。もしかするとあまり良い方法ではないかもしれませんが、はまれば結構効きます。
ポイントはショルダーの一番ハーモニクスが鳴る場所を選んでチューニングすること。おそらく頂点付近になるかと思います。この効くポイントを外すとあまり効きづらかったりするので注意です。
方法③音盤の長辺を長くする
長辺側の設計寸法を大きくするという方法です。これも望ましい方法では無い気がするのでできれば避けたいところです。
使用するチューナーと使用する上でのポイント
楽器チューナー(ストロボチューナー)をメインで使用します。 ただ目標の2倍音まで±50セントあたりまで来ないとチューナーも反応しづらいので、途中不安であればFFTで音を確認してください。
FFTツールを使って倍音の現在地を確認(2回目)
2倍音のチューニングが完了すると、音の軸がかなりはっきりして、音色も一気にハンドパンへと近づきます。この時点で割と達成感も得られます。
再びここでFFTして今度は3倍音の現在値を確認しときましょう。音の軸が出来たので、耳での聞き分けも比較的容易になっていると思います。
3倍音(オクターブ+完全5度)のチューニング
3倍音のチューニングは音盤短辺側のショルダー及びショルダー付近の変形で調整していきます。
3倍音は2倍音とは逆に音程を上げるチューニング方法となります。つまり、変形のさせ方もそのまま逆となります。
方法①ショルダーの内側を凸る
変形させると基音が狂うので、その都度基音をもとに戻しながらチューニングします。
ひとつ注意点ですが、あまり凸らせすぎないようにしてください。凸らせすぎるとハーモニクスが詰まり気味の音になるからです。
ほどほどのところでやめて、足りない分は方法②で補います。
ちなみに、3倍音のチューニングが2倍音のチューニングに影響を与えることはほぼないので、そこはあまり気にせずに作業しましょう。
方法②ショルダーの頂点を張らす
裏からハンマリングしてショルダーは張らせます。
結果的にショルダーを叩き伸ばすことになるので、伸ばした分は後戻りができません。少しづつ注意しながら行いましょう。
方法③音盤の短辺を短くする
方法①&②で上がりきらなかった場合、この方法をとりましょう。2倍音のチューニング方法③同様に、できれば避けたい方法です。
使用するチューナーと使用する上でのポイント
メインでは楽器チューナー(ストロボチューナー)を使用します。2倍音のチューニングが決まった時点で3倍音以降の倍音も揃っているとしてチューナーが反応してしまう(実際はまだ揃っていない)ので、±50セントまではFFTで確認したりしながらチューニングします。
このときに、基音⇒完全5度の相対音感が身についていれば耳での確認(おおまかな)も可能です。これができれば作業効率も上がるので、できれば身に着けたいものです。
チューニングマレットの使い方と効能(余談)
チューニングマレットの使用について面白いことに気づいたので一応書き留めておきます。
はじめに、使い方の参考になる動画があるので紹介しておきます。
3分40秒辺りからチューニングがはじまるのですが、時折、強めに音盤が唸るぐらいでバィンバィンと叩いているのが分かるかと思います。※たぶんあれ何やっているんだろう?とすでに疑問になっている方も多いかと思います。
で、あれは何の為に行っているか気になったので実際に試してみました。すると少し面白いことが分かりました。
それは、
「マレットで強めに叩くとチューニングがある一定の値に戻る」
という事です。※強くやりすぎたら狂います
なぜこのようなことが起こるのか詳しいことは分かりませんが、おそらくこの値が音盤の持つ安定値(物理的なものなのか音響的なものかはわかりませんが)なのではないかと思います。
なので、各チューナー達は安定値でチューニングが決まるようにファインチューニングで調整しているのではないかと考えています。
最後に
ハンドパンのチューニングというとブラックボックス的な側面が強く、素人目には何をやっているかさっぱり分からないというのが現状だと思います。今回のHOWTOで何をやっているかについて少しはイメージしやすくなってもらえたかなと思います。
なので今回の記事が、これからハンドパンを作りたい人のモチベーションへとつながって、ハンドパン製作を始める人が増えたらうれしいなと思います。
あと、このハンドパンチューニングというものはとても不思議で感動的で魅力的な体験ができるものだと思っております。これはハンドパン(スチールパンも)特有のものだと思います。 このような体験をシェアすることができれば一番うれしいです。
コメント